2017年6月のこと

その日訪れたのは、何年も前から家族で通っている店。那覇市の大通りに面した住宅の二階にあるフレンチレストランで、看板を立ててはいるものの、ぼーっとしていると見逃してしまいそうな、ひっそりとした佇まいである。まわりにも飲食店はない。

この日も、いつも通りに「お任せ」でコースを予約していた。母、義父とわたしの3人がいたが、直前まで各々に予定があったため、別々に来店した。わたしは国際通りで取材を終えた後だった。交通渋滞に巻き込まれた義父が15分ほど遅れ、来るやいなや「ビールください」とキッチンに伝えに行く。すぐさまに水を出そうとキッチンから出てきたシェフの手から直接グラスを受け取って、ふたりは目を合わせて笑った。この日は珍しくシェフ一人で店を切り盛りしていた。

「待ったでしょう?」

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